2022.06.23
第二章 エンパシーマーケティングの実現に向けて
モノづくりの多様化が生む、
従来型マーケティング手法の崩壊とその解決策とは

前回のコラムでは、「ダイバーシティ&インクルージョン」、多様性を包摂するということを、マーケティング的観点からどう実現していくべきか? というテーマで日本が抱えるピラミッド型組織の問題点、日本人的美徳が生む改革への非積極性などを掘り下げてお話しました。今回はそういった問題点を解決していく道筋について、前回も書いた「51%リリース理論」をベースにお伝えできればと思います。


モノを買わない、作らない社会が必要とする
これからの(持続可能な)マーケティング手法とは?

昨今、SDGsが声高に謳われ(それ自体は素晴らしいことで、肯定しています)、地球環境のためには「作らない」「買わない」ことが“正”であるという傾向が顕著になってきています。そうした潮流の中、「いつまでに〇〇数値達成目標」など、根拠がよくわからないまま数値化された達成目標を無理やり(半強制的に)掲げさせられて、その数値目標を達成することが企業活動の根本であるかのような、本末転倒な解釈をしている組織が非常に多いと感じます。

「地球環境に良いことを継続的にすべき」という概念自体は40年以上前からあり、今日いきなり始まった取り組みではありません。にも関わらず、今日まで、作っては壊すという“大量生産・大量消費”をやり続け、“供給過多”の状況を維持して散々環境を破壊し続けてきたことを急に棚に上げ、周囲に同調したふりをしているだけの付け焼き刃で、明日からいきなり方向転換などできる訳もありません。そもそもこの点に関しては、これまで自身の豊かさを追求するためにモノを創ってきた大人たちにとって、大きな矛盾を内包したものなのです。その矛盾を直視することなしに、表向きだけ「取り組んだ」としても、そんな薄っぺらい“理念”は、次世代のユーザーたちからすぐに見抜かれてしまいます。なぜなら、Z世代を筆頭とする次世代の若者たちは、すでにこの価値観(SDGsの基本概念)を持ち得ているからです。

「誰かのために、社会のために、環境のために」消費をする。所謂エシカルであることが、消費行動に向かうベースの基準としてそもそも“インストール”されているのです。そんな彼らのアテンションを得るためのキーワードは、単なる“モノ消費”ではなく、「分かち合う、支えあう、癒される」といった“深い共感”、つまり“エンパシー”を感じ取ることができる“コト体験”なのです。

モノづくりの多様化が生む、従来型マーケティング手法の崩壊とその解決策とは

コトのデザインをするうえで
未来を創る世代に学ぶことはとても多い

今回のタイトルに「従来型マーケティング手法の崩壊」と書いたのですが、すでに多くのマーケターがこのテーマの解をもとめ、頭を悩ませ迷宮をさまよっていることでしょう。私自身も頭を悩ませている一人なのですが、悩んでいる視点が多くの人と少し違うように感じています。

いくつか例を挙げると、「多様化に伴う消費ボリュームの分散化」、言い換えるならば「個々の世界観の狭さ」があります。これにより、適正な供給量の計算がますます難解になっています。
あるいは、「消費サイクルの速さ(=陳腐化の速さ)」も頭の痛い問題です。ホンモノ以外が淘汰されるのは止むを得ないとして、その速度につられて、ホンモノ自体も陳腐化のスピードが速まってしまう傾向が見られます。

モノやコンテンツが玉石混淆の中に埋もれていって、あっという間に「石」とともに「玉」までが陳腐化してしまいかねないスピード感を目の当たりにすると、「彼らにとって“素晴らしいコト体験”を提供できたとしても、あっというまに過去にされてしまう」のではないかという恐怖を感じるのです。しかし、これはいくら悩んだところで解決しません。簡単に消費して忘れ去られないような“素晴らしいコト”を、誠実に1つ1つ創り出していくしかありません。ではどうやって?

そうした悩みを解決してくれるヒントは、彼らと真摯に向き合い、本音で交わす会話からしか得られません。そのためにも、ここがポイントとなる「51%リリース理論」の部分なのですが、企業側の独りよがりとならないよう、企画段階から彼らと一緒にデザイン(シェア)し、最高なコト体験のデザインのプロセスを共有することが重要です。そうした1つ1つの積み重ねから、正解への道筋がみえてくるはず。私たちは、そう考えました。

モノづくりの多様化が生む、従来型マーケティング手法の崩壊とその解決策とは

“不要なもの”と見過ごしていた中にも
実は大切なものがあるかもしれないという気付き

一方で、ユーザーとなる彼らの意見をひたすら取り入れる、ということに解があると単純に言うつもりはありません。先ほども述べましたが、現状として「多様化に伴う消費ボリュームの分散化」という課題にどう向き合うべきかが問われているからです。

つまり、Z世代を筆頭とした若手世代は、本当に必要なもの、良いものを見抜く審美眼に優れており、大人たちがつくり出す一方的な宣伝やあからさまなターゲティング広告などには見向きもしません。一方で、自分で不要と決めたものに対しては、はなからシャットダウンして見向きもしない、自分がこれと決めた狭い世界に閉じこもりがちな姿勢が顕著であるとも言えるのです。自分が「不要」だと閉め出したものの中に、実は本人にとって非常に大事な気付きであったり、生きていく上で大きな指針となるような出会いがあるかもしれない。そのことを一緒に掘り起こしていく(見つけ出していく)のは、私たち大人の役割だと言えるでしょう。

つまり、これからのマーケティングに必要なのは、「一緒に掘り起こしていく」ような“コト体験”を、彼らユーザーとともに走りながら、いかに創り上げていくか、という視点だと言えます。

話しを最初に戻しますが、「持続可能なマーケティング手法」と言ったものの、明確な答えがあるわけではありません。いや、そもそもそんなものはまやかしであるという感性こそが、これからのマーケティングには必要かもしれません。ユーザーとともに「創っていく」のである以上、その解は常に流動的であるということです。


旧ターゲティング広告の終焉をきっかけに
エンパシー型マーケティングが市場を動かしていく

これまでは、目先の新しいものを何かと提供し、話題をつくっては消費欲を刺激していくというような、ネットテクノロジー主導型のマーケティング手法が主流でした。そして、確かに広告市場はネット広告が堅調であったことから、かろうじて成長を続けることができたのもまた事実です。

しかし、このマーケティング手法がついに終焉を迎えようとしています。プライバシー保護の観点から始まったITPにより、もうまもなくターゲティング広告そのものが成り立たなくなります。そのことに気づいていながら、いまだに多くの企業が次なる手法に向けて軌道修正できていないことに危機感を覚えますが、いずれにせよ、このターゲティング広告の終焉が、新たなイノベーションを生むはずだと期待しています。

それは、メタバースやマルチバースといった新しいネット技術に依存するといったことを意味しません。そうした技術ベースの広告戦略は、これまでと同様にあっという間に陳腐化し、消費されて終わるだけでしょう。そうではなく、人のこころに深く共感を生む「エンパシー型マーケティング」という概念がベースになっていくはずです。その原点思想から、わたしたちのEVOLOVEプロジェクトは生まれたのです。

モノづくりの多様化が生む、従来型マーケティング手法の崩壊とその解決策とは

EVOLOVEとは家族を愛し、隣の人を愛し、地元を愛すること
ちいさな愛の連鎖で自己の世界感が広がり進化する

ささやかな日常の中の、ふとした風景の中に、大切な「愛」を見出すこと。自分の感性のアンテナが触れる瞬間を見つけ出すこと。自分自身をまず大切にしながら、お互いの違いを認め合い、隣の人と大切なものを分かち合うこと。それこそが「EVOLOVE」のテーマであり、このプロジェクトの神髄です。従来型マーケティングの崩壊に対する一つの解決策とは言い切れませんが、「人のこころに深く共感を生む」アプローチは、必ず良い結果を示せると信じています。

コロナ過の昨年の秋にスタートし、暮らしを豊かにするような小さな気付きのシェアから、街づくりのアイディアコンペまで、さまざまな人や地域に横串を通して化学反応を引き出すようなイベントを行なってきました。

直近では、九州最大級の音楽イベント「宗像フェス」とコラボレーション企画を実施させて頂きました。音楽を通じて環境問題に取り組むなど、新しいフェスの形を発信し続けてきた宗像フェスとEVOLOVEのコンセプトが共鳴し、コラボレーションが実現しました。

詳細についてはレポート記事をお読みください。

宗像フェス実行委員会の方々を筆頭に、本当に多くの方と“EVOLOVE”の精神をシェアできたことは、大きな喜びでした。小さな子供たちから、学生のみなさん、学校の先生、行政のみなさんまで、有機的な人と人との繋がりから溢れ出す地元愛が、地域を超えて広がっていきました。私たちも多くの元気と勇気をいただきました。イベント開催にご協力・ご協賛いただいたパートナー企業の皆様に改めて感謝を申し上げます。

私たちのEVOLOVE企画は、これからも地域を超えて進化を続けます。次はまた、違う場所で新たな出会いを求めてプロジェクトを進めていきます。そのプロセスの中でエンパシーマーケティングの方向性と可能性が徐々に見えてきました。

新しいモノを創造するためには、尽きないモチベーションと膨大なエネルギー、そして共感していただけるパートナーが必要です。UXDセンターは私たちとリレーションを持つ全ての人たちの個性と多様性が生む、新たなイノベーションの可能性にチャレンジし続けます。

UXDセンター長 木村健

モノづくりの多様化が生む、従来型マーケティング手法の崩壊とその解決策とは

木村 健 

木村健

アナログ・デジタル問わず、あらゆる媒体で商業広告デザインやプロダクトデザイン、ブランド戦略を展開してきたクリエイターでありマーケター。1990年台半ばからさまざまな企業やクリエイターたちと協業し、コラボレーティブ・イノベーションに果敢に挑戦してきた。UI/UX/インタラクションデザイン領域を最も得意とし、Webメディアやアプリケーションデザイン分野で業界を跨いだインキュベーション活動を行っている。また、2007年頃からWeb/IT領域での教育の現場で講師兼メンターとして未来のクリエイター育成に貢献。
オープンイノベーション・コンソーシアムであるUXDセンターでは、初代センター長として立ち上げから参画。異業種プロフェッショナル集団の求心力である。

UXD Center

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