第三章 急速に早まる広告媒体革命、新たなプラットフォームの誕生
vol.9(ユーザーの)多様化の流れは止まらない。マスメディアの役割は限定的になり、広告ビジネスに関わるプレイヤーも媒体も分散していく。
大量集客目的の広告媒体が凋落し、
Webマーケティングがさらに進化する


前回のコラムでは、「大量生産・大量消費」を繰り返して「物質的な豊かさ」を追求してきた「土の時代」が終焉し、世界は「風の時代」に入ったことを取り上げました。既存の枠組みから解き放たれ、目に見えない豊かさへと価値観が移行していくとともに、飽和状態にある地球環境(ユニバース)から、ネット上に広がる擬似空間(メタバース)、さらには無数の個人の「メタバース」が併立共存している「マルチバース」へと、人々の生活空間のありようも大変革の時を迎えています。
当然のことながら、広告業界にもこうしたパラダイムシフトの波は押し寄せています。今回から数回にわたって、広告媒体が置かれた現状と目指すべき改革の方向性について、順を追ってひもといていきたいと思います。

大量集客目的の広告媒体が凋落し、Webマーケティングが進化する

昭和〜平成と隆盛を極めたマスメディアが、
インターネットへの移行で失ったものとは?

※今回から新章に入ります。本編には多少過激な発言も含まれますが、長年広告業に携わって来た自身に対する自省の念も込めての発言となりますので、予めご容赦願います。

昭和の終わりにその地位を確立した4大メディア(新聞・雑誌・テレビ・ラジオ)のうち、新聞・雑誌等の紙媒体が衰退の一途を辿っています。多くの人はインターネットが代替メディアとして躍進したからだと言います。それが原因であることは明確ですが、失ったものはメディアパワーだけではありません。
デジタルに移行したことで失ったものとは?長年広告に携わってきた人間として最も感じるのは “広告品質の劣化”に他なりません。

インターネットがメディアとして躍進し、誌面が大量かつ急速にデジタルに移行しました。それに伴い、広告業界もデジタルへとシフトせざるを得ない状況となりました。それまで新聞・雑誌を彩っていた広告が紙面から消え、街を走る電車からも中吊り広告の多くが消えました。
それらの、ほとんどは何処へ?言わずもがなスマートフォンの中に納まったわけです。
その結果何が起きたのか?そう、広告(クリエイティブ)の品質劣化を引き起こしたのです。

それまで、新聞や雑誌の広告は、広告主も読者も、媒体(出版社や編集者)に対してきちんと対価を払い、出稿側も丁寧に時間とコストをかけて高いクオリティを保つ努力をしていました。広告が、収入源という経済的な意味だけでなく、カルチャーとしてのメディアを育てていた面が、確かにあったのです。(今ももちろんその文化はちゃんと生き残っています)
しかし今や、デジタルに移行した媒体がコンテンツと共にばら撒いている広告は、恐ろしいほどに低品質です。「大特売!」とばかりにばら撒かれ、ただ捨てられていくチラシと何も変わらない粗雑な広告情報で溢れかえっています。
そこには、消費者と「コト・モノ」とをつなぐような創造性も物語もありません。オートマティックにマッチングされ、大量に情報をばら撒くことでなんとかアクセス数を稼ごうという、安易なサプライヤー側の広告運用システムとそれを取り巻く業界全体の思考停止が「質の劣化」をもたらしたのです。
紙の時代にはそれぞれの媒体が(それぞれの媒体に合った)品質管理をしていたはずの広告が、ネット上では野放し状態、多くの媒体は商品価値を損ないかねないような醜悪な広告が飛び込んでくることを制御できずにいるどころか、制御するつもりもないようです。まさしく「デジタルへの急激な移行が引き起こしたカルチャー破壊とでもいうべき状況が局地的に起こっています。
また、消費者側も、かつては対価を払って「雑誌」というコンテンツを購入していましたが、今やネットの情報は無料で入手できるのが当たり前になり、その代償としてノイジーで粗悪な広告の洪水に耐えています。
しかし、こうしたネット情報と広告ビジネスのありようは、ターゲティング広告が禁止されていく流れにおいて、すでに破綻しつつあります。

大量集客目的の広告媒体が凋落し、Webマーケティングが進化する

人が生きていくために広告は必要か?

いきなり各論めいたテーマの話をしますが、そもそも広告は必要なのか?という問いを立ててみたいと思います。その答えは当然「必要」です。
もちろん、広告が不要な人も、ごく少数ですが存在します。そういう人は、“自分が必要なものを自分で見つけ、自分でジャッジできる人”です。自分軸での選択基準が備わっているので、普遍的な選択基準を必要としません。モノ探し・モノ選びの手間やプロセス自体も、体験として楽しめる人たちです。

一方で、その他大勢の人たちは「広告」がないと、買う・買わない、の自己判断が上手くできません。
人が「購買」という行為に至るまでには、まず、“欲しい”という“前向きな欲求”が起こると同時に、“買ってよいものか?”という“負のエネルギー”が複雑に入り混じった状態になります。そして、この状態はどちらかというと“これを購入するタイミングは今なのか”、“誤った買い物ではないか”、“かなり大きな支出になるのではないか”など、負のエネルギー(=ストレス)の方が強くなりがちです。

そもそも、“生きる”ということは、負のエネルギーと向き合い、戦うことの連続です。このストレスを小さなチャンク(塊)に分解し、克服しやすくしていく。こうして得た勝利の体験を積み重ねていくことで、人は、幸せを感じ、ポジティブに生きていこうと前を向けるのです。
やや唐突な表現になったかもしれませんが、こうした本能的な行動の根源にある“感情”にスイッチを入れるためにこそ、「広告」が必要であり、それこそが広告の本来の役割だと言えます。

大量集客目的の広告媒体が凋落し、Webマーケティングが進化する

マスメディアは、
ドラスティックな自己変革のタイミングを逸してはならない

メディアは「真実を追い求める報道」や「美しいストーリー」をもって、人々に「負の感情に打ち勝ち、ポジティブな状態になる」ことを伝えていくという大義があります(少なくとも私はそう信じています)。すべてのメディアの活動の根幹には、人類の平和と幸福感を高めるという意識があるはずです。そして、実際にコンテンツを制作する現場では、そうした志を持って取材や演出にあたる多くの人たちがいることを私は知っています。

ところが、その同じメディアが、自分の媒体に登場する「広告」の品質を“管理・制御する”という点においては、まるで無節操になり無防備になり、無秩序を容認しているように見えてしまうのです。
そのように指摘すると、多くのメディアは「いやいや、それは広告主と出し手(オートマティックに広告表示をコントロールするサプライヤー側)の問題でしょう?」だとか、あるいは「メガプラットフォーマー(Google、Yahoo、META等)のレギュレーションと利益追求型思想のせいでは?」といった具合に、己の非を認めたがらないのです。
しかし、最終的に情報をアウトプットするのは「媒体」としてのメディア側ですから、彼らがその罪から逃れることはできないはずです。

では、何が最大の罪なのか。
品質の悪い広告コンテンツの氾濫は、負の感情の集団化を招きます。ネガティブな情報を受け取った視聴者は(負の感情の一致効果で)ネガな空気を拡散してしまうのです。そしてその結果、要らぬ対立や物騒な事件を引き起こしてしまいます。
不可思議な陰謀論があっという間に拡散されたり、ヘイトな言説がおかしな説得力を得てしまったり、明らかに著作権を侵害しているようなコンテンツが平然と消費されたりした事例を私たちはいくつも目の当たりしてきたはずです。
少し話しが脱線しましたが、犯した罪は償わないといけません。

では、どうやって?

大量集客目的の広告媒体が凋落し、Webマーケティングが進化する

既存の媒体依存型広告をやめ、
新たなプラットフォームへ移行させる

私たちは今、ネットメディアの大掃除をすべき時にきているのです。媒体を蝕むような広告を一掃していかなければなりません。
アクセス数を稼ぐことだけをメディアパワーとしてきたような悪質なコンテンツを一掃し、人と「コト・モノ」の適切なる一期一会を生み出すような、クオリティの高い広告を取り戻していかなければなりません。そのための「新たなプラットフォーム」づくりが急務です。とはいえ、広告業界の成り立ち上、一朝一夕にはいかないでしょうし、大変な労力と痛みが伴うでしょう。

そもそも、「新たなプラットフォーム」とは何でしょう。
そんな都合の良いモノがあるなら教えてください、という声が聞こえてきそうですが、それはこれから順を追って説明していきたいと思います。


Profile

木村 健UXDセンター センター長
木村 健

アナログ・デジタル問わず、あらゆる媒体で商業広告デザインやプロダクトデザイン、ブランド戦略を展開してきたクリエイターでありマーケター。1990年台半ばからさまざまな企業やクリエイターたちと協業し、コラボレーティブ・イノベーションに果敢に挑戦してきた。UI/UX/インタラクションデザイン領域を最も得意とし、Webメディアやアプリケーションデザイン分野で業界を跨いだインキュベーション活動を行っている。また、2007年頃からWeb/IT領域での教育の現場で講師兼メンターとして未来のクリエイター育成に貢献。
オープンイノベーション・コンソーシアムであるUXDセンターでは、初代センター長として立ち上げから参画。異業種プロフェッショナル集団の求心力である。

UXD Center

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