第二章 エンパシーマーケティングの実現に向けて
vol.8新しい時代の潮目、イノベーションが生まれる兆し
リアルとメタの融合で自分基軸の世界へ


前回のコラムでは、未来を生きるZ世代以降の人たちの可能性を引き出していくためには、既存のカリキュラムにとらわれることのない教育が必要であることについて、いくつかの角度からアプローチしました。なぜ画一的で均一的なこれまでの教育制度を早急に改革する必要があるのか。それは、今がまさに大きな時代の転換期にあるからです。

これからの時代を生きていく若い人たちには、個として自分基軸の世界を立ち上げていく力が不可欠です。そして、それは今を生きる私たち一人一人も例外ではありません。今回は、時代の潮目の大転換について考えてみましょう。

新しい時代の潮目、リアルとメタの融合で自分基軸の世界へ

「風の時代の到来、改革と個の時代の幕開け」

世界は2020年から(占星術で言うところの)「風の時代」に入ったといわれています。そして、「風の時代」はこれから約250年続くと言います。つまり、現代を生きる全ての人、これから生まれる未来の人も、当面の間は「風の時代」に生きて死んでいくということです。

私の解釈では、「風の時代」とは「改革と個」の時代、更に「自由と平等」「既存の枠組みからの解放」「物質や金銭といった見える豊かさから、目に見えない豊かさへと価値観が移行する」時代です。産業革命以降、大量生産や大量消費を繰り返して経済成長に邁進し、物質的な豊かさを追い求める、いわゆる「土の時代」が200年以上続いてきましたが、そうした価値観は180度変わりつつあります。今は、大きな時代の潮目にあるということです。
新時代の潮流を見極めて、その波に乗って生きていくために必要なスキルを準備していくことが、若い世代に限らず、今を生きる私たち全員に求められています。

新しい時代の潮目、リアルとメタの融合で自分基軸の世界へ

折りしも、2020年に世界中で起きたパンデミックが、こうした時代の変化を象徴していたといえます。コロナ禍の洗礼を受けて、私たちの社会のDX化は飛躍的に進みました。インターネット上に広がる擬似空間(最近流行りの〇〇バース的なやつです)において、時間と空間はあっさりと超越できるのだということを、社会全体が身をもって学びました。

「私」という「個」は、地球上に暮らす、その他の何十億の「個」と、大掛かりな枠組みやインフラなどを利用せずとも、ダイレクトに瞬時につながることができることをリアルに知ったのです。


飽和状態の「ユニバース」を
縦横無尽に押し広げていく「メタバース」

ここで、私たち80億人の人類が暮らす地球を「ユニバース」と定義します。「便利さ、快適さ」を求めて都市部に人口が集中し、今もなお世界全体の人口は増え続け、過剰な商取引が地球環境に負荷をかけ続けているのは皆さんもご存知の通りです。

このリアル生存区である「ユニバース」に相対するものとして、擬似空間としての「メタバース」があります。
「ユニバース」が飽和状態になりつつある昨今、「メタバース」を「疑似商空間」とみなすと、その可能性は無限大であることに気づきます。地球環境に過大な負荷をかけることなく、あらゆるコンテンツを無限大に提供することができ、そしてそのコンテンツに世界中の誰もがどこからでもいつでもアクセスできるのですから。

「ユニバース」と「メタバース」を対比させたところで、もう一つ、「マルチバース」という概念を取り上げたいと思います。「マルチバース」は、80億人の個人が暮らす「ユニバース」と、無限大の擬似商空間「メタバース」のハイブリッド、つまり仮想と現実が融合した空間として捉えることができます。

私たちは、一人一人が「個」としてこの世界に存在しながら、ユニバース空間で無限に飛び交うインターネットの周波数にチャネルを合わせるだけで、80億の「個」それぞれの世界と瞬時につながることができます。再びチャネルを切り替えれば、瞬時に「個」だけの世界に戻ることも可能です。
劇場やライブハウスに足を運ばなくても、地球の裏側で作られた映画や音楽や美術品などのあらゆるコンテンツにアクセスできます。もちろん、こうした体験が、実際に劇場や美術館に足を運び、そこにいる人や作品と、空間や時間をリアルに共有する価値を否定するものではありません。

“リアル”なよさと“ヴァーチャル”なよさを選択・融合させるのは、他の誰でもない、私たち一人一人です。どこで誰とどのコンテンツを選んでどのように楽しむか。暮らしを作り上げていくイニシアティブは、既に個にあるのです。
「ユニバース」に存在する80億人の「個」が、それぞれに自分基軸の世界を立ち上げ、リアルと仮想を行き来しながら複雑に関与し合う無数のパラレルワールドが「マルチバース」を形成していく、と言い換えるとわかりやすいでしょうか。

新しい時代の潮目、リアルとメタの融合で自分基軸の世界へ

時代の変わり目、大断捨離の時代 
意識改革は教育の現場から

「マルチバース」と表裏一体のパラレルワールドは、自分基軸の世界観を持つ「個」の際立つ存在がなければ成り立ちません。しかし、画一的な価値観の中で、横並びの「働き方」や「生き方」を忖度させるような「没個性」を学校でも企業でも叩き込まれてきた日本では、こうした「個」の感性を育む場が圧倒的に足りていないと痛感しています。
時代が大転換を迎えている今、抜本的な組織改革、教育改革を抜きにして、組織も個人も、変わりゆく世界へ漕ぎ出し、輝きを放つことはできないでしょう。

私が殊更に言うまでもなく、教育の現場でこのことを本気で考えている人たちはたくさんいます。お題目ではなく、本当の意味で一人一人の個性を認め、その世界観の構築を後押しするような抜本的な教育改革が急務です。
むしろ、今の若い人たちは大人たちよりもはるかに敏感に、こうした潮流を理解しています。世の中には、作り手の自己満足にすぎないような、押し付けがましく無駄な情報や商品が溢れており、その中から、自分の世界を本当の意味で豊かにしてくれるものを選び抜く目が大切であることをよくわかっています。
その若い人たちの意識に、既存の教育カリキュラムが追いついていません。そして、多くの教育者たちがこの事態に危機感を抱いています。私たちは、そういった方々と思いを共有し、改革をカタチにすべく、EVOLOVEを通して、さまざまな現場で動き始めています。それらの取り組みのいくつかは、前回のコラムでも紹介した通りです。

この輪を広げていく活動の先に、進化したマルチバースの姿、そして私たちの立ち位置がくっきりと見えてくると確信しています。私たちはこれからも、本当のイノベーションにチャレンジし続けます。

新しい時代の潮目、リアルとメタの融合で自分基軸の世界へ

EVOLOVEは“進化する愛”の探求。世代、地域、文化、宗教、国境を越えてみんなで理想の未来を創っていくプロジェクトです。

年頭のごあいさつに代えて


Profile

木村 健UXDセンター センター長
木村健

アナログ・デジタル問わず、あらゆる媒体で商業広告デザインやプロダクトデザイン、ブランド戦略を展開してきたクリエイターでありマーケター。1990年台半ばからさまざまな企業やクリエイターたちと協業し、コラボレーティブ・イノベーションに果敢に挑戦してきた。UI/UX/インタラクションデザイン領域を最も得意とし、Webメディアやアプリケーションデザイン分野で業界を跨いだインキュベーション活動を行っている。また、2007年頃からWeb/IT領域での教育の現場で講師兼メンターとして未来のクリエイター育成に貢献。
オープンイノベーション・コンソーシアムであるUXDセンターでは、初代センター長として立ち上げから参画。異業種プロフェッショナル集団の求心力である。

UXD Center

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